「遺言書を書きたいけど、何をどう書けばいいのかわからない」
そう感じている方は多いと思います。特に自筆証書遺言は、費用をかけずに自分一人で作れる手軽さがある反面、書き方に厳格なルールがあるため、せっかく書いても無効になってしまうケースが少なくありません。
この記事では、実際の事例をもとに、遺言書の各条文を1つずつ作りながら解説していきます。最後には完成した遺言書の全文も掲載します。「自分でも書けそうだ」と感じていただけることを目指して、できるだけシンプルにまとめました。
自筆証書遺言の4つの法律上のルール
遺言書を書き始める前に、まず守らなければならないルールを確認しておきましょう。自筆証書遺言は、民法968条に定められた方式に従う必要があります。
| 要件 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ① 全文自署 | 本文を全て自分で手書きする | パソコン打ちは無効。財産目録のみPC可(各ページに署名・押印が必要) |
| ② 日付 | 年月日を正確に記載する | 「令和7年5月吉日」など日が特定できない書き方は無効 |
| ③ 氏名 | 氏名を自署する | ペンネームや通称は避ける |
| ④ 押印 | 署名の横に押印する | 認印でも有効。本人の意思をより明確に示す観点から実印を使用する方も少なくない |
この4つが1つでも欠けると、遺言書は法的に無効になる可能性が出てきます。どれほど気持ちのこもった内容でも、形式を満たしていると認められなければ、法律上の効力は生まれません。
今回の事例:山田一郎さんのケース
具体的なイメージをつかんでいただくために、架空の人物を使って実際に遺言書を作ってみましょう。
家族構成
- 遺言者:山田 一郎(75歳・福山市在住)
- 配偶者:すでに他界
- 長男:山田 太郎(51歳・一郎と同居中)
- 次男:山田 次郎(48歳・別居)
財産の内容
- 自宅の土地・建物(福山市○○町 / 評価額 約2,000万円)
- 預貯金:○○銀行○○支店 普通預金 口座番号 ○○○○○○○ 約1,000万円
- 合計:約3,000万円
一郎さんの気持ち
長年一緒に暮らして世話をしてくれた長男・太郎に自宅(土地・建物)を継がせたい。次男・次郎には感謝の気持ちとして預貯金を全額渡したい。
遺言書を1条ずつ作っていく
それでは、実際に遺言書の各条文を作りながら解説していきます。
まず「タイトル」と「冒頭文」を書く
遺言書の一番上には、必ず「遺言書」というタイトルを書きます。「遺言」だけでも構いませんが、「遺言書」とするのが一般的です。
続けて、誰が書いたものかを示す冒頭文を入れます。
遺言書
遺言者 山田 一郎は、以下のとおり遺言する。
シンプルですが、これが遺言書としての出発点です。「以下のとおり遺言する」という一文で、これが本人の意思であることを明示します。
第1条:不動産を長男に相続させる
まず、自宅の土地と建物を長男・太郎に相続させる条文を書きます。
第1条 遺言者は、次の不動産を、長男 山田 太郎(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
【土地】
所在 福山市○○町○丁目
地番 ○○番○
地目 宅地
地積 ○○○.○○平方メートル【建物】
所在 福山市○○町○丁目○番地
家屋番号 ○○番○
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 ○○.○○平方メートル 2階 ○○.○○平方メートル
▼ この条文のポイント
不動産の情報は必ず登記簿謄本(登記事項証明書)を見ながら書いてください。
「自宅の土地と建物」とだけ書いた場合、周辺事情から特定できれば有効と判断される余地もありますが、どの不動産か特定できないと判断されるおそれもあります。トラブルを防ぐためにも、法務局で取得できる登記事項証明書(1通600円)に記載されている所在・地番・家屋番号などを、そのまま正確に書き写すことを強くおすすめします。
また、受取人の氏名だけでなく生年月日も記載することで、誰に渡すのかが明確になります。同名の人物がいた場合でも混乱を避けられます。
「相続させる」という表現を使うのがポイントです。「あげる」「譲る」ではなく、「相続させる」と書くことで、「特定財産承継遺言」として扱われます(民法1014条2項)。これにより、原則として当該遺言に基づいて単独で相続登記申請が可能になります。遺産分割協議を経ずに手続きを進めやすくなる点が大きなメリットです。
第2条:預貯金を次男に相続させる
次に、預貯金を次男・次郎に相続させる条文を書きます。
第2条 遺言者は、次の預貯金を、次男 山田 次郎(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号 ○○○○○○○
▼ この条文のポイント
預貯金を特定するには、銀行名・支店名・預金種別・口座番号を記載し、必要に応じて口座名義人なども併せて記載するとより確実です。「○○銀行の預金」だけでは、口座が複数ある場合に特定できません。通帳を手元に置いて、正確に書き写しましょう。
▼ この事例での遺留分について
遺言書を作る際、気をつけなければならないのが遺留分です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が最低限受け取れる財産の割合のことです。
この事例では、長男・次男それぞれの遺留分は、法定相続分(各2分の1)のさらに2分の1、つまり各4分の1(750万円)です。
- 長男:土地・建物 約2,000万円 → 遺留分750万円を大きく上回る ✓
- 次男:預貯金 約1,000万円 → 遺留分750万円を上回る ✓
この事例では、長男・次男ともに取得額がそれぞれの遺留分(各750万円)を上回っているため、遺留分侵害額請求が問題となる可能性は低いと考えられます。
なお、仮に遺留分を侵害していたとしても、遺言書自体が無効になるわけではありません。遺留分を侵害された相続人が、相続開始後に「遺留分侵害額請求」を行う問題として処理されます。遺言書を作る際は、遺留分への配慮も大切な視点の一つです。
第3条:遺言執行者を指定する
実務上、遺言書には遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長男 山田 太郎(昭和○○年○月○日生)を指定する。
▼ この条文のポイント
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きを行う権限を持つ人のことです(民法1012条)。預貯金の解約・払戻しなど、遺言内容を実現するための各種手続きを行うことができます。また、遺言執行者を指定しておくことで、相続手続きを円滑に進めやすくなります。
遺言執行者を指定しておくことで、遺言内容の実現に必要な手続きを円滑に進めやすくなります。特に、財産が複数の相続人に分かれているこの事例のような場合は、遺言執行者の存在が手続きの円滑化に大きく役立ちます。
今回の事例では、自宅に同居している長男・太郎を遺言執行者に指定するのが自然な選択です。
※遺言執行者は相続人に限らず、行政書士・司法書士・弁護士などの専門家を指定することもできます(民法1009条)。相続人間の関係が複雑な場合や、相続人に手続きの負担をかけたくない場合、相続人以外への遺贈が含まれる場合などは、専門家を遺言執行者に指定しておくと、中立的な立場で手続きを進めてもらえるという安心感があります。
付言事項:気持ちを伝えるメッセージ
法的な効力はありませんが、なぜそのように分けたのか、家族への思いを書き添えることができます。これを付言事項(ふげんじこう)といいます。
付言事項
太郎へ。長い間、一緒に暮らし、私の生活を支えてくれてありがとう。自宅を継いでほしいと思い、このように遺言書に残しました。次郎へ。遠くにいてもいつも気にかけてくれていることは知っています。預貯金はあなたに渡します。二人で仲良くやっていってください。
▼ この条文のポイント
法律上、付言事項に効力はありません。しかし、「なぜそのように分けたのか」を遺族に伝えることで、相続後のトラブルを防ぐ効果があります。特に、一方に不動産を渡してもう一方には渡さない、という内容のときは、その理由や感謝の気持ちを書き添えることで、遺された家族が納得しやすくなります。
形式的な法律文書の中に、人の温かさを残せるのが付言事項の魅力です。ぜひ積極的に活用してください。
最後に:日付・住所・署名・押印
全ての条文を書き終えたら、最後に日付・住所・氏名・押印を記載します。
令和○○年 ○月 ○日
福山市○○町○丁目○番○号
遺言者 山田 一郎 ㊞
▼ この部分のポイント
日付は年月日を全て書いてください。「令和7年5月吉日」のように日付が特定できない記載は、無効と判断される可能性があります。必ず「令和○○年○月○日」と年月日を明確に記載しましょう。
住所は必須ではありませんが、遺言者を特定しやすくなるため、記載することを強くおすすめします。
押印は認印でも有効ですが、本人の意思をより明確に示す観点から、実印を使用する方も少なくありません。
完成した遺言書の全文
1条ずつ作ってきた内容をまとめると、以下の遺言書が完成します。
遺 言 書
遺言者 山田 一郎は、以下のとおり遺言する。
第1条 遺言者は、次の不動産を、長男 山田 太郎(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
【土地】
所在 福山市○○町○丁目
地番 ○○番○
地目 宅地
地積 ○○○.○○平方メートル
【建物】
所在 福山市○○町○丁目○番地
家屋番号 ○○番○
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 ○○.○○平方メートル 2階 ○○.○○平方メートル
第2条 遺言者は、次の預貯金を、次男 山田 次郎(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号 ○○○○○○○
第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、長男 山田 太郎(昭和○○年○月○日生)を指定する。
付言事項
太郎へ。長い間、一緒に暮らし、私の生活を支えてくれてありがとう。自宅を継いでほしいと思い、このように遺言書に残しました。次郎へ。遠くにいてもいつも気にかけてくれていることは知っています。預貯金はあなたに渡します。二人で仲良くやっていってください。
令和○○年 ○月 ○日
福山市○○町○丁目○番○号
遺言者 山田 一郎 ㊞
Q. 書いていない財産が見つかったらどうなる?
遺言書には、全ての財産を書かなければならないわけではありません。ただし、遺言書に記載されていない財産については、相続人全員で遺産分割協議を行う必要が生じます。
「書き忘れた財産が出てきて、結局もめてしまった」というケースは実務上も少なくありません。これを防ぐために、実務ではよく以下のような包括条項を末尾に加えます。
第○条 遺言者は、本遺言書に記載した財産以外の一切の財産を、長男 山田 太郎(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
この一文を加えておくことで、後から財産が見つかった場合でも、遺産分割協議なしに処理できる可能性が高まります。「漏れ」への備えとして、ぜひ検討してみてください。
相続人以外に財産を渡したい場合
「孫に渡したい」「内縁の妻に渡したい」「お世話になった人に財産を渡したい」——そのような希望をお持ちの方もいるかと思います。
この場合、「相続させる」という表現は使えません。「相続させる」は相続人に対してのみ用いる表現です。相続人以外の人に財産を渡す場合は、「遺贈する」という表現を使います。
例:遺言者は、次の預貯金を、孫 山田 花子(平成○○年○月○日生)に遺贈する。
なお、相続人以外への遺贈は、他の相続人の遺留分を侵害しないよう注意が必要です。また、受遺者(遺贈を受ける人)が相続放棄に相当する手続きをとることもできるなど、相続人への「相続させる」とは異なる点がいくつかあります。内縁の方や孫など相続人以外への財産移転をお考えの場合は、専門家への相談をおすすめします。
よくあるミス:こう書くと無効になる
| よくある書き方 | 問題点 |
|---|---|
| パソコンで打った本文 | 全文自筆でないため無効 |
| 「令和7年5月吉日」 | 日付が特定できず無効となるおそれ |
| 押印なし | 要件欠如のため無効 |
| 「世話になった人にあげる」「親族に任せる」など | 受取人の記載が不明確で、誰を指すのか特定できない場合は無効になるおそれがあります |
| 二重線で消して上から書き直す | 所定の訂正方法(民法968条3項)に従わないと無効 |
特に訂正・修正は要注意です。書き損じた場合、民法で定められた方法(訂正箇所に署名・押印し、変更した旨を付記する)に従わなければなりません。自信がなければ、書き直すのが最も安全です。
書いた後はどこに保管する?
遺言書を書いたら、保管方法も重要です。主な方法は2つあります。
① 法務局の「自筆証書遺言書保管制度」(強くおすすめ)
令和2年7月から始まった制度で、全国の法務局で遺言書を保管してもらえます。保管には所定の手数料がかかります(令和8年6月現在:保管申請手数料1件につき3,900円)。
法務局に保管すると、家庭裁判所での「検認」手続きが不要になります。相続開始後の手続きが大幅に簡素化され、相続人の負担が減ります。また、紛失・改ざん・未発見のリスクも低くなります。
ただし、法務局では遺言書の内容の法的有効性までは審査しません。外形的な確認(全文自署・日付・署名・押印など)の確認は行われますが、遺留分への配慮や財産の記載内容の適切性までは確認されません。記載内容に不安がある場合は、専門家への相談をあわせてご検討ください。
② 自分で保管する
自宅の金庫や銀行の貸金庫などに保管します。この場合、相続開始後に家庭裁判所の検認手続きが必要です。また、発見されないリスクや改ざんのリスクが残ります。
特別な理由がなければ、法務局の保管制度の利用をおすすめします。
こんな方は専門家への相談をおすすめします
自筆証書遺言は自分で作成できますが、家族の状況や財産の内容によっては、専門家のサポートを受けながら作成した方が安心なケースがあります。
- 子どもがいないご夫婦(法定相続人の範囲が複雑になりやすい)
- 再婚家庭(前婚の子どもと現在の配偶者が相続人になる場合がある)
- 相続人以外の方(孫・内縁の方など)に財産を渡したい
- 不動産が複数ある、または遠方にある
- 相続人間で取得額に大きな差が生じ、遺留分への配慮が必要
- 民事信託(家族信託)や任意後見も合わせて検討したい
このような場合、ご自身で書いた遺言書の内容が意図どおりの効果を持つかどうか、確認しておくことが大切です。
森岡行政書士事務所では、相続・遺言に関するご相談を承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。
まとめ
自筆証書遺言のポイントを整理します。
- 全文手書き・日付・氏名・押印の4要件を必ず守る
- 不動産は登記事項証明書を見ながら正確に記載する
- 預貯金は銀行名・支店名・口座番号まで書く
- 受取人は氏名を明記し、生年月日も記載するとより確実
- 書き直す場合は正しい訂正方法か、新しい紙に書き直す
- 書いたら法務局の保管制度を活用する
- 気持ちを伝える付言事項を書き添えるとなお良い
遺言書は、書くこと自体が「家族への最後のプレゼント」だと私は思っています。ルールさえ守れば、難しい言葉を使う必要はありません。まずは、大切な人への思いを紙に書き出してみてください。
ただし、財産の内容によっては、遺言書だけでは解決できない問題が生じることもあります。特に、相続人以外に財産を渡したい場合、相続人間で取得割合に大きな差が生じる場合、事業承継を伴う場合などは、専門家に相談しながら作成することをおすすめします。
この記事でご紹介した文例はあくまでも参考です。実際の財産の状況・家族関係によって、適切な記載内容は異なります。「自分のケースではどう書けばいいか」など、具体的なご相談は、森岡行政書士事務所までお気軽にどうぞ。

